前歯の隙間、いわゆる「すきっ歯」に悩む方は少なくありません。近年、目立たずに歯並びを整えられるマウスピース矯正が人気ですが、すきっ歯の治療にどの程度有効なのか気になる方も多いでしょう。この記事では、すきっ歯になる原因や放置するリスクから、マウスピース矯正で治療できるケース・できないケース、治療のメリット・デメリット、費用や期間の目安までを総合的に解説します。
その「すきっ歯」、マウスピース矯正で治せるかもしれません
鏡を見るたびに気になる歯と歯の隙間。「すきっ歯」は見た目のコンプレックスになりやすいだけでなく、発音や噛み合わせにも影響を及ぼすことがあります。そんな悩みを解決する方法として、近年注目されているのがマウスピース矯正です。装置が透明で目立ちにくく、取り外しが可能であるため、日常生活への影響を最小限に抑えながら治療を進められるのが大きな魅力です。すべてのすきっ歯が対象になるわけではありませんが、多くのケースで改善が期待できます。まずはご自身のすきっ歯がマウスピース矯正で治療可能か、その可能性を探っていきましょう。
そもそも「すきっ歯」とは？原因と放置するリスク
歯と歯の間に隙間がある状態は、一般的に「すきっ歯」と呼ばれています。歯科医療の専門用語では「空隙歯列（くうげきしれつ）」や「歯間離開（しかんりかい）」と表現され、単に見た目の問題と捉えられがちですが、その背景にはさまざまな原因が隠されています。この章では、すきっ歯がなぜ生じるのか、その主な原因を先天的なものと後天的なものに分けて解説します。さらに、すきっ歯を治療せずに放置した場合に起こりうる、見た目以外の健康上のリスクについても詳しくご説明します。
すきっ歯（空隙歯列）になる主な原因
すきっ歯が発生する原因は一つではありません。いくつかの要因が複雑に絡み合っている場合もあります。まず、先天的な原因として挙げられるのが、顎の大きさと歯の大きさのアンバランスです。例えば、顎の骨は大きいのに歯が小さい場合や、逆に顎が小さいのに歯が大きい場合など、スペースの不均衡によって歯と歯の間に隙間が生じやすくなります。
また、生まれつき歯の本数が足りない「先天性欠如（せんてんせいけつじょ）」や、歯の形が通常よりも小さい「矮小歯（わいしょうし）」もすきっ歯の原因となります。特に前歯に矮小歯があると、隣の歯との間に目立つ隙間ができやすいです。
後天的な原因としては、指しゃぶりや舌で前歯を押す癖（舌突出癖：ぜつとっしゅつへき）などの習癖が挙げられます。これらの癖が長期間続くと、歯に不適切な力が加わり、前歯が押し出されて隙間が広がる可能性があります。さらに、歯周病が進行すると、歯を支える骨が溶けて歯がグラグラになり、歯が移動して隙間ができてしまうこともあります。
すきっ歯を放置する4つのリスク
すきっ歯は、見た目の問題だけでなく、お口の中や全身の健康にも関わるさまざまなリスクをはらんでいます。歯と歯の間に隙間がある状態を放置することで、食べ物が挟まりやすくなることによる衛生的な問題から、発音への影響、噛み合わせの悪化、そして精神的なコンプレックスに至るまで、見過ごされがちな問題が生じる可能性があります。このセクションでは、すきっ歯を放置することによって生じる具体的な4つのリスクについてご紹介し、続く各項目で詳しく解説していきます。
リスク1：虫歯や歯周病になりやすくなる
歯と歯の間に隙間があると、食べ物の繊維やカスが挟まりやすくなります。この挟まった食べカスは、歯ブラシの毛先が届きにくいため、通常の歯磨きだけでは十分に除去することが難しいです。除去しきれなかった食べカスは、やがてプラーク（歯垢）として歯の表面に蓄積し、細菌の温床となります。このプラーク内で虫歯菌や歯周病菌が繁殖することで、虫歯や歯周病を発症するリスクが大幅に高まってしまうのです。定期的な歯科検診やプロフェッショナルクリーニングを怠ると、さらにリスクは増大します。
リスク2：発音がしにくくなる
歯の隙間は、発音にも影響を及ぼすことがあります。特に前歯に大きな隙間があると、発音する際に息が漏れやすくなり、特定の音が不明瞭になる「発音障害」を引き起こすことがあります。サ行、タ行、ハ行など、舌と歯の間に息を通すことで発音する音は、隙間から空気が漏れることで、いわゆる「サ行が歯擦音になる」といった症状が出やすいです。これにより、会話中に相手に聞き返されることが増えたり、ご自身が発音に自信が持てなくなったりと、コミュニケーションにおいてストレスを感じる原因にもなり得ます。
リスク3：噛み合わせが悪化する可能性がある
歯には、隣り合う歯がないスペースがあると、そこに向かって倒れたり、移動したりする性質があります。すきっ歯を放置すると、この自然な性質によって隣の歯が傾いてきたり、噛み合う相手の歯がその隙間に向かって伸びてきたりすることがあります。このように歯が動くことで、歯並び全体のバランスが崩れ、結果的に噛み合わせが悪化する可能性があります。
噛み合わせの悪化は、特定の歯に過度な負担をかけ、歯の寿命を縮めたり、顎関節症（がくかんせつしょう）の原因になったりするリスクもあります。また、一部の歯に負担が集中することで、歯の破折や詰め物・被せ物が外れやすくなるといった、さらなる問題を引き起こす可能性も考えられます。
リスク4：見た目がコンプレックスになる
すきっ歯は、機能的な問題だけでなく、心理的な影響も大きくもたらします。特に人目につきやすい前歯の隙間は、笑顔に自信が持てなくなったり、口元を隠して話すようになったりと、ご自身のコンプレックスの原因になりがちです。これにより、人前で話すことや笑うことに抵抗を感じ、対人関係や社会生活において消極的になってしまうことがあります。
このような精神的な負担は、QOL（生活の質）の低下につながる可能性もあります。見た目のコンプレックスは個人の内面に深く影響するため、早期の解決を検討することが、自信を取り戻し、より充実した日々を送るための一歩となるでしょう。
すきっ歯はマウスピース矯正でどこまで治せる？
気になる前歯の隙間、いわゆる「すきっ歯」は、見た目の問題だけでなく、機能面にも影響を及ぼすことがあります。近年、透明で目立ちにくいマウスピース矯正が注目されていますが、ご自身のすきっ歯がマウスピース矯正でどこまで治せるのか、疑問に思う方も多いでしょう。マウスピース矯正は多くのすきっ歯の症例に有効な治療法ですが、治療の成功はすきっ歯の原因や隙間の大きさ、歯並び全体の状態によって左右されます。この章では、マウスピース矯正が得意とするケースと、他の治療法が適している、あるいは併用が必要となる難しいケースについて具体的に解説していきます。
マウスピース矯正で治療しやすいすきっ歯のケース
マウスピース矯正は、歯を大きく動かす必要のない軽度から中程度のすきっ歯の治療に特に効果を発揮しやすい傾向があります。例えば、歯の大きさが正常であるにもかかわらず、歯がわずかに傾いたり捻れたりすることで生じている隙間は、マウスピース矯正の精密なコントロールによって効果的に閉じることが可能です。また、以前に矯正治療を受けたものの、時間の経過とともにわずかに歯が動き、再び隙間が生じてしまった「後戻り」のケースも、マウスピース矯正で比較的容易に修正できることが多いです。これらの症例では、歯全体の大きな移動を伴わず、主に歯の傾きや位置を微調整して隙間を閉じるため、マウスピース矯正による負担も少なく、スムーズに治療を進められるでしょう。
マウスピース矯正だけでは治療が難しいケース
一方で、マウスピース矯正単独での治療が難しい、あるいは不向きなすきっ歯のケースも存在します。例えば、顎の骨格に起因するような極端に大きなすきっ歯や、抜歯を伴うような大幅な歯の移動が必要となる重度の症例では、マウスピース矯正だけでは十分な治療効果が得られない可能性があります。また、歯を歯茎の方向に沈ませる「圧下」のような垂直的な歯の移動や、大幅な奥歯の移動を伴う複雑な噛み合わせの問題を抱えている場合も、マウスピース矯正だけでは対応が困難なことがあります。これらのケースでは、ワイヤー矯正との併用や、セラミックなどの補綴治療を組み合わせて治療を行うなど、歯科医師と相談して最適な治療法を検討する必要があります。
自己判断は禁物！まずは歯科医師の診断を受けましょう
ご自身のすきっ歯がマウスピース矯正で治療可能かどうかを、インターネットの情報だけで判断することは非常に危険です。歯並びの状態や顎の骨格は一人ひとり異なり、表面的な見た目だけでは正確な診断はできません。正確な診断を行うためには、レントゲン撮影や3D口腔内スキャナーによる詳細な歯型採り、顔やお口の中の写真撮影といった精密検査が不可欠です。これらの検査結果に基づいて、歯科医師が総合的に判断し、適切な治療計画を立案します。
安易な自己判断で不適切な治療法を選んでしまうと、時間や費用を無駄にするだけでなく、かえって歯並びが悪化したり、他の口腔内の問題を引き起こしたりするリスクも考えられます。すきっ歯でお悩みの方は、まずは専門家である歯科医師に相談し、ご自身の歯並びに合った最適な治療法についてカウンセリングを受けることが、理想的な笑顔への最も確実な第一歩と言えるでしょう。
すきっ歯治療にマウスピース矯正を選ぶメリット・デメリット
すきっ歯の治療法としてマウスピース矯正を検討する上で、その利点と欠点を正しく理解しておくことは非常に重要です。この章では、マウスピース矯正が持つメリットとデメリットを両側面から詳しく解説します。まず「目立たず快適」といった大きなメリットを掘り下げ、次に「自己管理が必須」といった注意すべきデメリットについて具体的に説明することで、患者様が自身にとって最適な選択をするための判断材料を提供していきます。
【メリット】目立たず快適に治療を進められる
マウスピース矯正の最大の魅力は「審美性」と「快適性」です。従来のワイヤー矯正と比較して、治療中の見た目や日常生活におけるストレスが大幅に軽減される点が大きな特徴です。これから、なぜ目立たずに快適な治療が可能なのか、その具体的な理由として「透明な装置」「取り外し可能」「痛みの少なさ」「金属アレルギーの心配がないこと」の4つのポイントを詳しく解説していきます。
1. 装置が透明で目立ちにくい
マウスピース型矯正装置は、薄く透明な医療用プラスチックで精密に作られています。歯にぴったりとフィットするため、装着していても他人に気づかれにくく、矯正治療中も口元の見た目を気にすることなく過ごせる点が大きなメリットです。接客業や人前で話す機会が多い職業の方、または見た目を重視する思春期の方にとって、これは精神的な負担を大きく軽減し、自信を持って社会生活を送れるようになる重要なポイントとなります。
2. 食事や歯磨きの際に取り外せる
マウスピース矯正は、固定式のワイヤー矯正とは異なり、患者様ご自身で自由に取り外しができる点が特徴です。これにより、食事の際には装置を外して普段通りに好きなものを食べることができ、食事制限に悩まされることがありません。また、歯磨きの際にも装置を外せるため、磨き残しが少なく、矯正治療期間中の虫歯や歯周病のリスクを低く抑えることができます。これは口腔衛生を良好に保つ上で非常に大きな利点です。
3. ワイヤー矯正に比べて痛みが少ない傾向がある
マウスピース矯正は、ワイヤー矯正に比べて痛みが少ない傾向にあります。ワイヤー矯正が月に一度ワイヤーを調整して強い力をかけるのに対し、マウスピース矯正は1〜2週間ごとに新しい装置に交換し、持続的に弱い力で少しずつ歯を動かしていきます。このため、一度に感じる痛みが少なく、比較的快適に治療を進められると感じる方が多いです。また、装置に凹凸が少ないため、口の中の粘膜を傷つけて口内炎になるリスクも低いとされています。
4. 金属アレルギーの心配がない
従来のワイヤー矯正では、金属製のブラケットやワイヤーに含まれるニッケルなどの金属によって金属アレルギーを発症する方がいらっしゃいました。しかし、マウスピース型矯正装置は医療用プラスチックでできており、金属を一切使用しないため、金属アレルギーの心配がありません。金属アレルギーが原因で矯正治療を諦めていた方でも、安心してマウスピース矯正を選択できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
【デメリット】自己管理が治療成功のカギ
マウスピース矯正には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。特に、装置を取り外しできるという最大のメリットが、同時に最大のデメリットにもなり得るという点を理解しておくことが重要です。つまり、治療の進行が患者様ご自身の協力度、特に自己管理能力に大きく依存するという点です。これから、その具体的な内容として「装着時間の遵守」「適応症例の限界」「紛失・破損のリスク」の3つのデメリットについて詳しく解説していきます。
1. 装着時間を守る必要がある
マウスピース矯正で計画通りに歯を動かすためには、1日20時間以上（歯科医師の指示によっては22時間以上）という長時間の装着が必須です。食事や歯磨きの時間以外は常に装着している必要があります。もし装着時間を守らないと、歯が計画通りに動かず、治療期間が延長したり、最悪の場合には治療計画の練り直しが必要になったりするリスクがあります。そのため、自己管理が苦手な方にとっては、治療の継続が難しいと感じるかもしれません。
2. 適応できない症例がある
マウスピース矯正は非常に有効な治療法ですが、万能ではありません。骨格的な問題に起因する重度のすきっ歯や、抜歯を伴うような大幅な歯の移動が必要なケースなど、マウスピース矯正の適応範囲には限界があります。無理に適応外の症例をマウスピース矯正で治療しようとすると、満足のいく結果が得られないだけでなく、かえって歯並びが悪化してしまう可能性もあります。そのため、事前の精密な診断が非常に重要であり、場合によってはワイヤー矯正など他の治療法が適していることもあります。
3. 紛失・破損のリスクがある
マウスピースは取り外しができるため、紛失や破損のリスクが伴います。例えば、食事の際に外してティッシュに包んだまま置き忘れてしまい、誤って捨ててしまうといったケースは少なくありません。また、着脱時に無理な力を加えたり、適切にケースに保管しなかったりすると、マウスピースが破損してしまう可能性もあります。マウスピースを紛失・破損した場合、作り直しのための追加費用と時間がが、治療の進行が遅れてしまう原因となりますので、取り扱いには十分な注意が必要です。
マウスピース矯正ですきっ歯を治す費用と期間の目安
すきっ歯の治療を検討する際、多くの方が費用と期間について最も気になるのではないでしょうか。これらの要素は、治療する範囲（前歯などの部分矯正か、奥歯を含めた全体矯正か）、症例の難易度、選択するマウスピースのブランド、そして歯科クリニックによって大きく異なります。この章では、あくまで一般的な目安として、すきっ歯のマウスピース矯正にかかる費用と期間を、部分矯正と全体矯正のケースに分けて具体的に解説していきます。
治療にかかる費用の目安
マウスピース矯正は、原則として審美目的と見なされるため、公的医療保険が適用されない自由診療です。そのため、費用は全額自己負担となります。提示される費用には、初回のカウンセリング料、精密検査・診断料、マウスピース装置の製作費、治療中の調整料、保定装置の費用などが含まれることが一般的です。歯科クリニックによって料金体系や含まれる項目が異なるため、治療を開始する前に総額をしっかり確認し、納得した上で治療を進めることが大切です。
部分矯正の場合
部分矯正とは、主に見た目が気になる前歯など、限定的な範囲の歯並びを整える治療法です。動かす歯の本数が少なく、治療範囲が狭いため、全体矯正に比べて費用が安価になる傾向があります。一般的な目安として、30万円〜60万円程度が相場とされています。軽度のすきっ歯で、奥歯の噛み合わせに大きな問題がない場合に適した治療法です。
全体矯正の場合
全体矯正は、すきっ歯だけでなく、奥歯の噛み合わせを含めた口腔全体の歯並びを整える治療法です。治療範囲が広いため、使用するマウスピースの数も多くなり、費用は高額になる傾向があります。一般的な目安として、70万円〜100万円程度が相場とされています。すきっ歯の原因が噛み合わせ全体の問題に起因する場合や、より理想的な歯並びと噛み合わせを目指す場合に必要となります。
治療にかかる期間の目安
マウスピース矯正の治療期間は、歯を動かす距離や歯並びの複雑さ、そして最も重要なのが患者さん自身のマウスピース装着時間の遵守率に大きく影響されます。また、年齢や骨の代謝の個人差なども関係してきます。これから部分矯正と全体矯正それぞれの目安期間を解説しますが、あくまで一般的な目安であり、個々の症例によって大きく異なることをご理解ください。
部分矯正の場合
部分矯正は、動かす歯の本数が少なく、移動距離も短いため、治療期間は比較的短く済む傾向があります。一般的には数ヶ月から1年程度が目安となります。短期間で見た目の改善が期待できることから、結婚式などのイベントを控えている方や、比較的軽度のすきっ歯を改善したい方に選ばれやすい治療法です。
全体矯正の場合
全体矯正は、口腔全体の歯を理想的な位置に動かし、正しい噛み合わせを構築するため、治療期間は長くなる傾向があります。一般的には1年半〜3年程度が目安とされています。複雑な症例ではそれ以上かかる場合もありますので、長期的な視点で治療に取り組む必要があることを理解しておきましょう。
治療後の保定期間も重要
矯正治療が完了し、歯並びが整った後も「保定期間」という重要なステップがあります。歯は、移動した直後はまだ不安定で、元の位置に戻ろうとする「後戻り」という現象が起こりやすい性質を持っています。これを防ぎ、せっかく整えた美しい歯並びを維持するために、「リテーナー（保定装置）」と呼ばれる装置を装着する必要があります。
リテーナーの装着期間は、一般的に歯を動かした動的治療期間と同程度か、それ以上（特に夜間のみの装着を長期間続けること）が推奨されます。歯科医師の指示に従い、正しくリテーナーを使用しなければ、治療で得られた結果が失われてしまうリスクがあるため、保定期間も矯正治療の一環として非常に大切です。
マウスピース矯正によるすきっ歯治療の基本的な流れ
マウスピース矯正ですきっ歯の治療を検討されている方にとって、実際にどのようなプロセスで治療が進むのかは非常に気になる点ではないでしょうか。治療のステップを事前に把握しておくことで、不安なく、安心して治療に臨むことができるでしょう。ここでは、カウンセリングから精密検査、治療計画の立案、実際の治療開始、定期的な通院、そして治療後の保定期間に至るまでの一連の流れを、Step 1からStep 5に分けて詳しく解説していきます。
Step 1: カウンセリング・精密検査
マウスピース矯正における治療の第一歩は、丁寧なカウンセリングと精密検査から始まります。まず、多くの歯科クリニックで実施されている無料カウンセリングなどを利用して、患者様のすきっ歯に関する悩みや、どのような口元になりたいかといった希望を詳しくヒアリングします。歯科医師は、その情報をもとに口腔内を視診し、マウスピース矯正が治療の選択肢として適切かどうかを大まかに判断します。
もし治療を進めることになった場合、より詳細な「精密検査」を行います。この検査では、歯や顎の状態を正確に把握するために、レントゲン撮影（パノラマレントゲンやセファロレントゲンなど）を実施します。さらに、歯型を採るための印象採得を行うか、近年では3D口腔内スキャナーを用いて数分で高精度な歯のデータを取り込むこともあります。顔や口の中の写真撮影も行い、これらの多角的なデータに基づいて、正確な診断と個別性の高い治療計画を立案するための材料を収集します。
Step 2: 治療計画の作成とシミュレーション
精密検査で収集された詳細なデータをもとに、歯科医師は患者様一人ひとりに合わせた治療計画を慎重に作成します。この段階で特に重要なのが、マウスピース矯正専用のソフトウェアを用いた3Dシミュレーションの活用です。このシミュレーションでは、現在の歯並びから、マウスピースの交換段階ごとに歯がどのように動いていくのか、そして最終的にどのような理想的な歯並びになるのかを、立体的な画像や動画で視覚的に確認できます。
患者様は、治療が始まる前にご自身の歯がどのように変化していくのかを具体的にイメージできるため、安心して治療に臨むことができるでしょう。また、このシミュレーションを通じて、治療のゴールが明確になり、治療期間中のモチベーション維持にもつながります。歯科医師は、このシミュレーション結果を患者様と共有し、疑問点や不安な点がないかを確認しながら、治療計画の最終的な合意形成を行います。
Step 3: マウスピースの作製・治療開始
患者様が治療計画とシミュレーション内容に同意された後、その計画に基づいてオーダーメイドのマウスピースがすべて一括で作製されます。この作製プロセスには通常、数週間程度の期間を要します。完成したマウスピースが歯科クリニックに届くと、いよいよ実際の治療がスタートします。
初回の装置装着時には、歯科医師または歯科衛生士から、マウスピースの正しい着脱方法、日々のケア方法、そして装着時間に関する詳細な指示と注意点について説明を受けます。通常、マウスピースは1～2週間ごとにご自身で新しいものに交換していくことで、段階的に歯を動かしていきます。装着時間を守り、正しく使用することで、計画通りに歯が移動し、すきっ歯の改善へとつながるのです。
Step 4: 定期的な通院と経過観察
マウスピース矯正では、治療期間中も定期的な通院が必要です。ワイヤー矯正と比較すると通院頻度は少なく、一般的には1～3ヶ月に1回程度のペースで通院します。この定期通院の主な目的は、歯が計画通りに動いているかを歯科医師が確認することです。
通院時には、口腔内の清掃状態をチェックし、虫歯や歯周病のリスクがないかを確認します。また、治療の進行に合わせて、必要に応じて「IPR（Interproximal Reduction）」と呼ばれる、歯の側面をごくわずかに削ってスペースを作る処置を行うこともあります。これは、歯をスムーズに移動させるために必要な場合がある処置です。さらに、次段階のマウスピースの受け渡しや、マウスピースの装着状況に関するアドバイスなども行われます。この定期的な経過観察を通じて、治療が順調に進んでいることを確認し、必要に応じて計画の微調整を行うことで、より確実な治療結果を目指します。
Step 5: 保定期間（後戻り防止）
すべてのマウスピースを使い終え、理想的な歯並びが整った後も、矯正治療はまだ完全に終了ではありません。この段階で非常に重要になるのが、「保定期間」と呼ばれる最終ステップです。治療直後の歯は、まだ周囲の骨や歯周組織が安定していないため、元の位置に戻ろうとする「後戻り」という現象が起こりやすい状態にあります。
この後戻りを防ぎ、整えた歯並びをしっかりと維持するために、「リテーナー（保定装置）」と呼ばれる装置を装着する必要があります。リテーナーには、マウスピースタイプや歯の裏側にワイヤーを固定するタイプなどいくつかの種類があり、患者様の状態やライフスタイルに合わせて歯科医師が最適なものを提案します。装着スケジュールは、治療直後は終日装着し、その後徐々に夜間のみの装着へと移行するなど、歯科医師の指示に厳密に従うことが大切です。この保定期間中も、歯並びの安定性を確認するための定期的な検診が必要となります。保定を怠ってしまうと、せっかく時間と費用をかけて整えた歯並びが元に戻ってしまうリスクがあるため、患者様ご自身の協力が不可欠です。
すきっ歯のマウスピース矯正に関するよくある質問
すきっ歯の治療を検討されている方にとって、マウスピース矯正は非常に魅力的な選択肢です。しかし、実際に治療を始める前には、様々な疑問や不安がつきものでしょう。ここでは、すきっ歯のマウスピース矯正に関してよく寄せられる質問を4つ厳選し、それぞれの質問に対して専門的な視点から分かりやすくお答えしていきます。これらの情報が、あなたが治療への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
Q1. 自力で歯の隙間を埋めることはできますか？
結論から申し上げますと、ご自身の判断で自力で歯の隙間を埋めることは絶対にできません。インターネット上などで、輪ゴムや市販の器具を使って歯の隙間を閉じようとする「DIY矯正」の情報を見かけることがありますが、これは非常に危険な行為です。歯に不適切な力がかかると、歯の根が吸収されて短くなってしまったり、歯が正常な位置から大きくずれて抜け落ちてしまったり、さらには歯茎に深刻なダメージを与えてしまうリスクがあります。
安全で効果的な歯の移動は、歯科医師による精密な診断と、専門的な知識に基づいた管理下でのみ可能です。安易な自己判断は、取り返しのつかない結果を招く可能性がありますので、絶対に避けましょう。
Q2. 市販のマウスピースに矯正効果はありますか？
スポーツ用のマウスガードや、歯ぎしり防止用のナイトガードなど、市販されている様々な種類のマウスピースがありますが、これらは歯科医院で作製される矯正用マウスピースとは目的も構造も全く異なるものです。市販品は、歯への衝撃を和らげたり、歯ぎしりによる負担を軽減したりすることを目的として設計されており、歯を動かす矯正効果は一切ありません。
ご自身の歯並びに合わない市販のマウスピースを無理に使用することは、かえって歯や顎に悪影響を及ぼす危険性があります。例えば、特定の歯に過度な圧力がかかり、歯並びを悪化させたり、顎関節に不調をきたしたりする可能性も否定できません。歯並びを改善したい場合は、必ず歯科医師に相談し、適切な矯正治療を受けるようにしてください。
Q3. 治療中に痛みはありますか？
マウスピース矯正では、新しいマウスピースに交換した最初の2～3日間、歯が動くことによる圧迫感や締め付けられるような痛みを感じることがあります。これは、歯が計画通りに移動している証拠であり、一般的には数日で慣れてくる軽度なものです。痛みの感じ方には個人差がありますが、従来のワイヤー矯正に比べて、マウスピース矯正の方が痛みが少ないと感じる方が多い傾向にあります。
痛みが強く感じる場合でも、市販の鎮痛剤で対処できる程度がほとんどです。また、マウスピースは表面が滑らかであるため、口の中の粘膜を傷つけて口内炎になるリスクも低いとされています。もし痛みが続くようでしたら、無理せずに歯科医師に相談しましょう。
Q4. 治療後に後戻りしませんか？
矯正治療が終わった直後の歯は、周囲の骨がまだ固まっていないため、元の位置に戻ろうとする「後戻り」という現象が起こりやすい状態にあります。これはマウスピース矯正に限らず、すべての矯正治療に共通する課題です。しかし、歯科医師の指示に従い、リテーナー（保定装置）を適切に使用することで、後戻りを効果的に防ぐことが可能です。
リテーナーは、動的治療によって整えられた歯並びを安定させるための非常に重要な装置です。装着期間や方法は、症例によって異なりますが、治療にかかった期間と同程度か、それ以上の期間（特に夜間のみの装着を長期間）が推奨されることが多いです。せっかく時間と費用をかけて手に入れた美しい歯並びを長く維持するためには、保定期間を怠らず、患者さんご自身の協力が不可欠であることを理解しておきましょう。
まとめ：すきっ歯の悩みは専門家へ相談し、自信の持てる笑顔へ
前歯のすきっ歯は、見た目の問題だけでなく、虫歯や歯周病のリスクを高めたり、発音に影響を及ぼしたり、噛み合わせの悪化を招いたりと、さまざまな機能的な問題を引き起こす可能性があります。そのため、すきっ歯を放置することはおすすめできません。
近年、目立たずに歯並びを整えられるマウスピース矯正は、すきっ歯の治療法として非常に有効な選択肢の一つです。透明な装置で周囲に気づかれにくく、食事や歯磨きの際には取り外しができるため、日常生活への影響を最小限に抑えながら治療を進められるという大きなメリットがあります。
しかし、マウスピース矯正がすべてのすきっ歯の症例に適用できるわけではありません。骨格的な問題がある場合や、大幅な歯の移動が必要な重度のケースでは、ワイヤー矯正との併用や、別の治療法が適していることもあります。また、マウスピース矯正は患者さんご自身の自己管理、特に装着時間の厳守が治療成功のカギとなります。
すきっ歯の治療にかかる費用や期間も、部分矯正か全体矯正か、症例の難易度によって大きく異なります。この記事で解説したメリットとデメリット、費用の目安、治療の流れを参考に、ご自身のすきっ歯がマウスピース矯正で改善できるのか、どの程度の費用と期間がかかるのかを把握することが重要です。
インターネットの情報だけで自己判断せずに、まずは歯科医師による専門的な診断を受けることが、自信の持てる笑顔への第一歩です。精密検査を通じてご自身の口腔内の状態を正確に把握し、最適な治療計画を提案してもらうことで、安心してすきっ歯の悩みを解消できるでしょう。勇気を出して、ぜひ一度カウンセリングを受けてみてください。
少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
監修者
高橋 衛 | Takahashi mamoru
岩手医科大学歯学部卒業後、岩手医科大学歯学部口腔外科第二講座入局し、
医療法人 高橋衛歯科医院設立 理事長就任、MAMO IMPLANT CLINIC MALIOS 開設
【所属】
・日本歯科医師会
・岩手県歯科医師会
・盛岡市歯科医師会
・歯科医師臨床研修指導歯科医
・岩手県保険医協会
・日本口腔外科学会
・日本口腔インプラント学会
・EUROPEAN ASSOCIATION FOR OSSEOINTEGRATION
・AMERICAN ACADEMY PERIODONTOLOGY
・岩手医科大学歯学会
・デンタルコンセプト21 会員
・日本歯科東洋医学会
・JIADS Club 会員
・P.G.I Club 会員
・スピード矯正研究会 会員
・床矯正研究会 会員
・近代口腔科学研究会 会員
【略歴】
・岩手医科大学歯学部 卒業
・岩手医科大学歯学部口腔外科第二講座 入局
・「高橋衛歯科医院」 開業
・「MAMO IMPLANT CLINIC MALIOS」 開業
岩手県盛岡市の歯医者・歯科
『高橋衛歯科医院』
住所：岩手県盛岡市北天昌寺町７−１０
TEL：019-645-6969
