
食事中に「カチッ」という音とともに歯が欠けてしまったり、ふとした瞬間に歯にひびが入っていることに気づいたりして、不安な気持ちになった経験はありませんか。痛みはなくても、見た目の問題や今後の生活への影響を考えると、どうすれば良いのか焦ってしまうものです。
この記事では、まず歯が欠ける主な原因として、多くの方が疑問に感じる歯ぎしりやストレス、虫歯、そして予期せぬ外傷などについて詳しく解説します。そして、歯が欠けてしまった直後にご家庭でできる応急処置や、逆に絶対にやってはいけないNG行動、さらに放置することの危険性についても具体的にお伝えします。
また、欠けた歯の大きさや症状に応じた適切な治療法を、治療にかかる期間や費用の目安とあわせてご紹介します。さらに、一度治療した歯を長持ちさせ、再発を防ぐための予防策まで網羅的に解説します。
歯が欠けてしまった!すぐにできる応急処置とやってはいけないこと
食事中や、ふとした瞬間に「カリッ」という音とともに歯が欠けてしまうと、誰でも驚きと不安でいっぱいになりますよね。痛みを感じなくても、見た目が気になったり、「このまま放置して大丈夫なのかな?」と心配になったりするものです。
しかし、歯が欠けた直後は、焦って間違った対処をしてしまうと、かえって状態を悪化させてしまうことがあります。まずは落ち着いて、これからお伝えする「やってはいけないこと」を避け、その後に「歯科医院へ行くまでにできる応急処置」を実践することが大切です。
このセクションでは、歯が欠けた際に冷静に対処できるよう、すぐにできる正しい応急処置と、避けるべきNG行動について詳しく解説していきます。適切な初期対応を知ることで、今後の治療をスムーズに進め、歯へのダメージを最小限に抑えることにつながります。
まずは確認!歯が欠けた時にやってはいけないNG行動
歯が欠けたときに、良かれと思ってしまいがちな行動の中には、実は歯や歯茎に悪影響を与えたり、治療を複雑にしたりするものがいくつかあります。ここでは、歯科医院を受診するまでに絶対に避けるべきNG行動を3つご紹介します。
まず、「欠けた部分を舌や指で頻繁に触る」のはやめましょう。口の中は細菌がたくさん存在しており、むやみに触ることで、欠けた部分から細菌が侵入し、感染症を引き起こすリスクが高まります。また、舌や指で触る刺激によって、神経が過敏になり、痛みが増す可能性もあります。
次に、「欠けた歯の破片を自分で接着しようとする」行為も危険です。市販の接着剤は人体への使用を想定しておらず、歯や歯茎に炎症を起こしたり、有毒な成分が体内に入る恐れがあります。また、うまく接着できたとしても一時的なもので、正しい噛み合わせに戻すことはできず、後にさらなるトラブルを招く可能性が高いです。そして、「痛みが無いからと放置する」のは最も危険なNG行動です。痛みがないからといって、歯が欠けた状態を放置すると、エナメル質の内側にある象牙質が露出し、細菌感染のリスクが格段に上がります。結果として、むし歯が進行して激しい痛みが生じたり、歯の神経(歯髄)まで感染が広がり、最終的には抜歯が必要になるなど、より深刻な事態に陥るリスクがあります。
歯科医院へ行くまでにできる応急処置
歯が欠けてしまった際、歯科医院にすぐ行けない場合でも、ご自宅でできる応急処置を正しく行うことで、状態の悪化を防ぎ、その後の治療に良い影響を与えることができます。ここでは、歯科医院を受診するまでの間に実践していただきたい4つの応急処置をご紹介します。
まず、もし欠けた歯の破片が見つかった場合は、「乾燥させずに保管する」ことが非常に重要です。破片が元の歯と再結合できる可能性があるため、牛乳や生理食塩水に浸すか、それがなければ清潔なラップやビニール袋に入れ、乾燥しないように口の中に入れて(唾液で湿らせて)持参してください。
次に、お口の中を清潔に保つために、「ぬるま湯で優しく口をすすぐ」ことをおすすめします。欠けた部分に食べかすや細菌が付着するのを防ぎ、感染リスクを軽減します。痛みがある場合は、市販の「鎮痛剤を服用する」ことで一時的に痛みを和らげることができます。また、患部が腫れている場合は、「頬の外側から冷やす」ことも有効です。冷やしすぎると血行が悪くなるため、濡れタオルなどで優しく冷やすようにしましょう。食事をする際は、欠けた歯に負担がかからないよう、やわらかいものを反対側の歯で噛むように工夫してください。
痛みがなくても放置は危険!すぐに歯医者へ行くべき理由
「歯が欠けたけれど、痛みがないから大丈夫だろう」と自己判断して歯科医院への受診を後回しにしてしまう方は少なくありません。しかし、見た目に大きな変化がなくても、歯の内部では深刻な問題が進行している可能性があります。痛みがなくても、欠けた歯を放置することは非常に危険な行為です。
歯の一番外側を覆っているエナメル質は体の中で最も硬い組織ですが、これが欠けてしまうと、その内側にある象牙質が露出します。象牙質はエナメル質よりも柔らかく、神経に近い組織で、むし歯菌が侵入しやすい構造をしています。露出した象牙質に食べかすや細菌が付着すると、むし歯の進行が早まり、冷たいものがしみたり、ズキズキとした激しい痛みが生じたりする可能性が高まります。さらに放置すると、むし歯菌が歯の神経(歯髄)まで到達し、根管治療が必要になることもあります。
また、欠けた部分の鋭利な角が舌や頬の粘膜を傷つけたり、噛み合わせのバランスが崩れて他の健康な歯に過度な負担がかかったりすることもあります。最悪の場合、歯の根が縦に割れて「歯根破折」を起こし、抜歯以外の選択肢がなくなるケースも少なくありません。このような状態になると、治療にかかる期間は長くなり、費用も増大してしまいます。
痛みがなくても、歯が欠けたという事実は、歯の健康が損なわれているサインです。小さな欠けであっても、早めに歯科医院を受診し、適切な診断と治療を受けることが、将来的に歯を失うリスクを減らし、ご自身の歯を守るために非常に重要になります。
なぜ歯が欠けるの?ストレスや歯ぎしりだけじゃない5つの原因
朝食中にふと奥歯に違和感があったり、おやつのナッツを噛んだ瞬間に前歯の一部が欠けたりしたとき、「どうして自分の歯が欠けてしまったのだろう」と不安に感じるかもしれません。歯が欠ける原因は一つではなく、私たちの日常生活におけるさまざまな要因が複雑に絡み合って生じることがあります。痛みがないからといって放置すると、後々大きなトラブルにつながる可能性も少なくありません。
このセクションでは、歯が欠けてしまう代表的な原因として、歯ぎしりや食いしばりといった癖、虫歯の進行、不慮の外傷、硬い食べ物を噛んだ際の物理的な衝撃、そして酸による歯の溶解(酸蝕歯)の5つを詳しく解説します。ご自身の生活習慣や口の中の状態を振り返りながら、どれが当てはまるかを確認することで、原因の特定と今後の予防に役立てていただけたらと思います。
原因1:歯ぎしり・食いしばり(ストレスによる影響も)
歯が欠ける原因として非常に多いのが、無意識のうちに行われる歯ぎしりや食いしばり(歯科用語で「ブラキシズム」と総称されます)です。歯ぎしりは上下の歯を横方向に強くすり合わせる動き、食いしばりは上下の歯を強く噛みしめる動きを指します。これらの行為は、特に睡眠中に無意識のうちに行われることが多いため、ご自身ではなかなか自覚しにくいものです。
歯ぎしりや食いしばりが続くと、歯には非常に大きな圧力がかかります。これにより、歯の表面が異常にすり減ってしまう「咬耗(こうもう)」という現象が起こります。咬耗によって歯の表面のエナメル質が薄くなると、歯の内部にマイクロクラック(目に見えないほどの微細なひび)が入りやすくなり、最終的に歯が欠ける原因となります。また、ストレスや疲労が蓄積すると、歯ぎしりや食いしばりの習慣が悪化する傾向があるため、心身の状態も歯の健康に影響を与えている可能性があるでしょう。
原因2:虫歯で歯がもろくなっている
虫歯は、歯が欠ける主要な原因の一つです。虫歯菌が作り出す酸によって歯の表面のエナメル質が溶かされ、さらに進行すると、歯の内部にまで病巣が広がって空洞化します。見た目には小さな穴にしか見えなくても、歯の内部は大きく破壊されていることが少なくありません。この状態の歯は非常に脆くなっており、健康な歯であれば耐えられるような日常的な力、例えば食事中に硬いものを噛んだり、歯ブラシが当たったりする程度の衝撃でも簡単に欠けてしまうことがあります。
特に注意が必要なのは、見た目では分かりにくい場所で虫歯が進行しているケースです。歯と歯の間や、過去に治療した詰め物の下などで虫歯が広がっていると、気づかないうちに歯の強度が著しく低下していることがあります。このような状態の歯は、突然欠けてしまうことが多く、自覚症状がないまま進行していることもあるため、定期的な歯科検診で早期発見・早期治療を心がけることが大切です。
原因3:転倒や事故による外傷
不慮の事故や予期せぬ衝撃によって歯が欠けることもあります。例えば、転倒して顔面を強くぶつけたり、スポーツ中にボールや相手と衝突したり、交通事故に遭ったりするなど、外部からの強い力が歯に直接加わることで、歯が物理的に破損することがあります。特に、口元の中心に位置する前歯は、衝撃を受けやすいため、外傷によって欠けたり折れたりしやすい部位といえるでしょう。
外傷による歯の損傷は、欠ける程度もさまざまです。歯の先端がわずかに欠ける軽度なものから、歯が根元から折れてしまったり、歯茎や顎の骨にまで損傷が及んだりする重度なものまであります。衝撃の強さによっては、神経にダメージが及ぶことも考えられるため、外傷によって歯が欠けてしまった場合は、見た目に問題がなくても速やかに歯科医院を受診して、専門家による適切な診断と処置を受けることが非常に重要です。
原因4:硬いものを噛んだ時の衝撃
普段の食事の際、何気なく硬いものを噛んだ瞬間に歯が欠けてしまうことがあります。例えば、氷を噛んだり、ナッツや飴のような硬いお菓子、骨付き肉などを勢いよく噛み砕いたりする際に、歯に瞬間的に非常に強い力(咬合力)がかかるため、その衝撃に耐えきれずに歯が欠けてしまうケースです。健康な歯であっても、極端に硬いものや想定外の角度で強い力が加われば欠ける可能性は十分にあります。
しかし、特に注意が必要なのは、すでに歯が弱っている場合です。虫歯で歯質が脆くなっていたり、歯ぎしりや食いしばりによって歯に小さなひびが入っていたり、酸蝕歯によってエナメル質が溶かされて軟化していたりすると、通常なら問題ないはずの硬さの食べ物でも簡単に歯が欠けてしまうリスクが高まります。日頃から硬いものを好んで食べる習慣がある方は、歯に負担をかけすぎていないか、食生活を見直すことも予防につながるでしょう。
原因5:酸蝕歯(さんしょくし)で歯が溶けている
「酸蝕歯(さんしょくし)」とは、虫歯菌とは関係なく、酸性の飲食物や胃酸などによって歯の表面のエナメル質が化学的に溶かされてしまう状態を指します。虫歯は細菌が酸を作り出して歯を溶かすのに対し、酸蝕歯は外部からの酸や体内の酸が直接歯に作用することが特徴です。炭酸飲料、柑橘系の果物、お酢、ワイン、スポーツドリンクなど、酸性度の高い飲食物を習慣的に摂取していると、歯が常に酸にさらされて溶けやすくなります。
また、胃食道逆流症(逆流性食道炎)などで胃酸が逆流してきたり、過食嘔吐を繰り返したりする習慣がある場合も、歯が胃酸にさらされて酸蝕歯になることがあります。酸によってエナメル質が軟化し、すり減りやすくなるため、わずかなブラッシング圧や食事の際の咬合力でも歯が欠けたり、すり減ったりしやすくなります。酸蝕歯が進行すると、歯の内部にある象牙質が露出し、知覚過敏を引き起こすことも少なくありません。生活習慣の中に酸の摂取が多いと感じる場合は、注意が必要です。
欠けた歯の治療法|範囲・症状別の治療期間と費用目安
歯が欠けてしまったとき、「どのような治療をするのか」「治療にはどれくらいの期間がかかるのか」「費用はどのくらいかかるのか」といった疑問や不安をお持ちになるのは当然のことでしょう。欠けた歯の治療法は、欠けた範囲の大きさや、歯の神経(歯髄)が損傷しているかどうかによって大きく異なります。
このセクションでは、欠けた歯の状況に応じた具体的な治療法を詳しくご紹介します。保険が適用される治療と、自費診療となる治療それぞれの特徴や費用の目安にも触れ、ご自身に合った治療法を選択するための情報を提供します。ご自身の歯の状態と照らし合わせながら、最適な治療計画を立てる参考にしてください。
【小さい欠け】コンポジットレジン(CR)修復
ごくわずかな範囲で歯が欠けてしまった場合、コンポジットレジン(CR)修復が最も一般的で効果的な治療法の一つです。これは、白いプラスチック製の歯科材料を直接、欠けた部分に盛り足し、特殊な光を当てることで硬化させる方法です。
この治療の大きな利点は、保険が適用されるため費用が比較的安価であること、そして多くの場合、1回の通院で治療が完了することです。また、歯を削る量が最小限で済むため、ご自身の歯を多く残すことができます。レジンは色調が豊富なため、周囲の歯の色に合わせて調整でき、治療後の見た目も自然で目立ちにくいという特徴があります。通常、治療時間は30分から1時間程度で、保険適用の場合の費用は数千円程度が目安となります。
【中程度の欠け】インレー(詰め物)やクラウン(被せ物)
歯の欠損が中程度の大きさで、コンポジットレジンだけでは強度的に不十分と判断される場合には、「インレー(詰め物)」や「クラウン(被せ物)」が治療の選択肢となります。
インレーは、虫歯を削った後や欠けた部分など、歯の一部を補うための部分的な詰め物です。一方、クラウンは歯全体をすっぽりと覆いかぶせる被せ物で、歯の大部分が失われている場合や、根管治療を行った後の歯の強度を回復させる目的で用いられます。これらの治療では、まず欠けた歯の型を採り、その型をもとに歯科専門の技工所で詰め物や被せ物を製作するため、最低でも2回以上の通院が必要になります。1回目の通院で型採りを行い、2回目以降の通院で完成した詰め物や被せ物を装着するという流れが一般的です。
詰め物・被せ物の種類と特徴(保険診療・自費診療)
インレーやクラウンといった詰め物・被せ物には、保険診療で選択できるものと、自費診療となるものがあり、それぞれ材質や特徴、費用が大きく異なります。
保険診療では、主に金属(いわゆる銀歯)やCAD/CAM冠が使用されます。金属の詰め物や被せ物は、強度が高く奥歯での使用に適していますが、見た目が目立つことや、金属アレルギーのリスクがあることがデメリットです。CAD/CAM冠は白いプラスチック製の被せ物で、近年保険適用範囲が拡大していますが、適用できる部位に制限があり、金属に比べて耐久性がやや劣る場合があります。
一方、自費診療では、セラミック(オールセラミック、ジルコニア)やゴールドなどが主な選択肢です。セラミック製の詰め物や被せ物は、天然歯に近い透明感や色調を再現できるため、審美性に非常に優れています。特にジルコニアは強度も高く、奥歯にも使用可能です。また、生体親和性が高いため、金属アレルギーの心配もほとんどありません。ゴールドも生体親和性があり、しなやかさがあるため歯に馴染みやすく、噛み合う歯を傷つけにくいという特徴があります。これらの自費診療の材料は、見た目の美しさや耐久性、体に優しいという点で優れていますが、費用が高額になる傾向があります。それぞれのメリット・デメリットを比較し、ご自身の希望や予算に合わせて選択することが重要です。
【大きい欠け】根管治療後にクラウン(被せ物)
歯の欠けが非常に大きく、歯の内部にある神経(歯髄)まで細菌感染が及んでしまった場合は、まず「根管治療」が必要になります。根管治療とは、感染して炎症を起こした神経や血管を取り除き、根管内を丁寧に清掃・消毒する処置のことです。
根管治療を行うことで、歯の内部の細菌を除去し、炎症を鎮めることができます。この治療は非常にデリケートで専門的な技術を要するため、複数回の通院が必要です。根管治療が完了した後は、歯の強度を回復させるために、歯の土台となる「コア」を立て、その上から最終的にクラウン(被せ物)を装着します。このように、歯の神経まで及ぶ大きな欠けの場合、治療の過程が複雑になるため、通院回数が多くなり、治療期間も数週間から数ヶ月と長くなる傾向があります。
【歯が割れた・折れた】抜歯とその後(ブリッジ・入れ歯・インプラント)
残念ながら、歯が歯茎の下まで深く割れてしまったり(歯根破折)、縦に大きく折れてしまったりするなど、歯の保存が不可能と判断される最悪のケースもあります。このような場合は、やむを得ず「抜歯」が選択されることになります。抜歯は、残された歯や周囲の組織への悪影響を防ぐために必要な処置です。
歯を失った後の治療選択肢としては、主に「ブリッジ」「部分入れ歯」「インプラント」の3つがあります。ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削り、それらを土台として人工の歯を橋渡しのように固定する方法です。固定式で安定感がありますが、健康な歯を削る必要があります。部分入れ歯は、残っている歯にクラスプ(金具)をかけて固定する取り外し式の義歯で、比較的安価ですが、安定感や見た目に課題がある場合があります。
インプラントは、顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上から人工歯を装着する方法です。周囲の歯を削る必要がなく、天然歯に近い見た目と噛み心地が得られますが、外科手術が必要であり、費用も高額になります。どの治療法が最適かは、残っている歯の状態、顎の骨の量、全身の健康状態、そしてご希望に応じて歯科医師と相談して決定することが大切です。
【部位別】欠けた歯の治療で知っておきたいこと
歯が欠けてしまったとき、どのような治療法が選択されるかは、欠けた歯の部位によって優先されるポイントが異なります。特に、人目に触れることの多い「前歯」と、食事の際に重要な役割を果たす「奥歯」では、治療の目的や選択される材料に大きな違いがあるためです。
このセクションでは、前歯と奥歯、それぞれの特徴や、審美性(見た目の美しさ)と機能性(しっかりと噛める力)のどちらが治療の主眼となるかを詳しく解説していきます。ご自身の欠けた歯の部位に合わせて、適切な治療法を理解する参考にしてください。
前歯が欠けた場合|見た目の美しさを重視した治療
人との会話や笑顔の際に真っ先に目に入る前歯は、欠けてしまうと、その見た目の変化に強い不安を感じる方が少なくありません。早く以前のような美しい口元を取り戻したいというお気持ちは当然のことでしょう。そのため、前歯が欠けた場合の治療では、単に歯の機能を回復させるだけでなく、色、形、そして透明感といった「審美性」が非常に重要視されます。
治療法としては、小さな欠けであれば、保険診療で白いプラスチック素材を詰めるコンポジットレジン修復が選択されます。これは、周囲の歯の色に合わせて自然な仕上がりにすることが可能です。しかし、欠けが大きい場合や、より高い審美性を求める場合には、自費診療のオールセラミッククラウンが推奨されることがあります。オールセラミックは天然の歯と見分けがつかないほどの透明感と色調を再現でき、非常に美しい仕上がりが期待できます。
歯科医院では、患者さんの希望を詳しくヒアリングし、残っている歯の状態や噛み合わせ、予算などを総合的に考慮した上で、最も適した治療計画を提案します。見た目の美しさを追求したい場合は、カウンセリングで遠慮なく相談することが大切です。
奥歯が欠けた場合|噛む機能の回復を重視した治療
奥歯は食事をする際に食べ物を細かくすり潰す、非常に強い力がかかる部位です。そのため、奥歯が欠けた場合の治療では、見た目の美しさよりも、むしろ「機能性」と「耐久性」が最も優先されます。硬いものをしっかりと噛み砕けること、そしてその状態が長持ちすることが重要だからです。
奥歯の治療では、欠損の大きさによってインレー(詰め物)やクラウン(被せ物)が用いられます。保険診療では、金属製の詰め物や被せ物(いわゆる銀歯)が主流となります。これらは強度が高く、奥歯の機能回復に適していますが、見た目は自然ではありません。最近では、保険適用で白い素材であるCAD/CAM冠も選択肢の一つとなりますが、適用できる部位に制限があります。
自費診療の選択肢としては、ジルコニアやゴールドが挙げられます。ジルコニアは非常に強度が高く、奥歯の噛む力に十分耐えられ、見た目も白いというメリットがあります。ゴールドは生体親和性が高く、歯へのなじみが良い上に、しなやかさも兼ね備えているため、強い力がかかる奥歯に適しています。これらの素材は、ご自身の歯の状態や、どの程度の機能回復と耐久性を求めるかによって、歯科医師と相談しながら最適なものを選ぶことが大切です。
歯が欠けるのを防ぐために。今日からできる3つの予防策
一度治療を終えた歯でも、根本的な原因が解決されていなければ、残念ながら再び欠けてしまうリスクが残ります。そのため、治療を受けることと並行して、日々の生活習慣を見直し、将来的に歯が欠けるのを防ぐための予防策に取り組むことが非常に重要です。このセクションでは、今日から実践できる具体的な予防策を3つご紹介します。ご自身の状況に合わせて、ぜひできることから始めてみてください。
歯が欠ける原因は多岐にわたりますが、多くの場合、無意識の癖や食生活、口腔ケアの習慣が深く関わっています。これらの習慣を改善することで、歯への負担を減らし、健康な状態を長く維持することが可能です。予防は、将来的な治療の負担や費用を軽減することにもつながります。
歯ぎしり・食いしばり対策(ナイトガードなど)
歯ぎしりや食いしばりは、歯が欠ける原因の中でも特に注意が必要な習慣の一つです。特に睡眠中の歯ぎしりは、ご自身では気づきにくいため、歯科医師から指摘されて初めて知る方も少なくありません。この無意識の強い力は、歯に過大な負担をかけ、歯の表面をすり減らしたり、微細なひび(マイクロクラック)を生じさせたりして、最終的に歯が欠けるリスクを高めます。
歯ぎしりや食いしばりへの最も効果的な対策として推奨されるのが、就寝中に装着するマウスピース「ナイトガード」です。ナイトガードは、歯医者で患者さん一人ひとりの歯型を採り、オーダーメイドで製作されます。これを装着することで、歯と歯が直接接触するのを防ぎ、歯ぎしりの力を緩和して歯や顎関節への負担を大幅に軽減できます。
また、日中の食いしばり癖にも意識を向けることが大切です。ストレスや集中しているときなど、無意識に上下の歯を強く噛みしめていることがあります。デスクに「歯を離す」などとメモを貼るなどして、意識的に上下の歯を離す習慣をつけるセルフケアも有効です。これにより、日中の歯への負担を減らし、歯が欠けるリスクを低減することができます。
食生活の見直しで酸から歯を守る
歯が欠ける原因の一つに「酸蝕歯(さんしょくし)」があります。これは虫歯菌とは関係なく、飲食物に含まれる酸によって歯の表面のエナメル質が溶かされてしまう状態です。酸によって軟らかくなった歯は、わずかな力でも欠けやすくなります。そのため、日々の食生活を見直し、酸から歯を守ることが予防には不可欠です。
特に注意したいのは、炭酸飲料、スポーツドリンク、柑橘系の果物、お酢など、酸性度の高い飲食物の習慣的な摂取です。これらの飲食物をだらだらと長時間摂取し続けると、口の中が常に酸性の状態に保たれ、歯が溶けやすくなります。摂取する際は、短時間で済ませることを心がけましょう。
具体的な工夫としては、ストローを使って歯に直接酸が触れる時間を減らす、摂取後はすぐに水やお茶で口をゆすいで酸を洗い流す、といった方法が挙げられます。また、食後すぐに歯磨きをすると、酸によって軟らかくなったエナメル質が削れてしまう可能性があるため、30分ほど時間をおいてから優しく磨くようにしてください。これらの小さな習慣が、大切な歯を守ることにつながります。
定期的な歯科検診でリスクを早期発見・対処
歯が欠けるのを防ぐ上で、最も重要かつ効果的な予防策の一つが、定期的な歯科検診の受診です。ご自身では気づきにくい初期の虫歯や、無意識の歯ぎしりによる歯のすり減り、表面には現れていない微細なひび(マイクロクラック)などは、専門家である歯科医師や歯科衛生士でなければ発見が難しいものです。
定期検診では、こうした問題が小さいうちに発見し、適切な処置を行うことができます。初期段階で対処すれば、大がかりな治療を避けることができ、歯が大きく欠けてしまうような深刻な事態を防ぐことが可能です。結果として、治療にかかる時間や費用、身体的な負担も大幅に軽減されます。
かかりつけの歯科医院を持ち、半年に一度など定期的に口腔内のチェックを受けることで、歯の健康状態を継続的に管理し、問題の早期発見・早期対処に繋げることができます。これは、将来にわたってご自身の歯を長く使い続けるための最も賢明な投資と言えるでしょう。
歯が欠けたときに関するよくある質問
歯が欠けてしまうと、多くの疑問や不安が次々に頭をよぎるものです。「どうすればいいの?」「治療はどれくらいかかるの?」「子どもの歯が欠けた場合は?」といった、よく寄せられる質問について、ここで詳しくお答えします。
Q1. 欠けた歯の破片は持っていくべきですか?
はい、できる限り欠けた歯の破片は歯科医院へ持参してください。破片の状態によっては、歯科医師が歯の状態を正確に診断するための重要な手がかりになることがあります。また、条件が合えば、欠けた歯の破片を特殊な接着剤で元の位置に戻して修復できる可能性もあります。特に、前歯など見た目が気になる部分が欠けた場合には、破片を戻すことで自然な仕上がりになることも期待できます。
破片を保管する際は、乾燥させないことが重要です。乾燥してしまうと、接着できる可能性が低くなることがあります。生理食塩水や牛乳の中に浸しておくか、それが難しい場合は、清潔な容器に入れてご自身の口の中に含んで持参する方法もあります。いずれの場合も、破片を失くしたり、さらに破損させたりしないよう、丁寧に扱ってください。
Q2. 治療にはどれくらいの期間がかかりますか?
歯の治療にかかる期間は、欠けた範囲の大きさや、歯の神経(歯髄)への影響の有無によって大きく異なります。小さな欠けであれば、コンポジットレジン(CR)という白いプラスチックを詰める治療で、一般的に1日で完了します。この場合、麻酔が必要ないことも多く、比較的短時間で治療が終わります。
欠けが中程度で、詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)が必要な場合は、歯型を採る日と、作製されたものを装着する日で、最低でも2回の通院が必要です。これは通常1〜2週間程度の期間を要します。もし欠けが大きく、歯の神経まで損傷している場合は、根管治療(歯の神経の治療)が必要になります。根管治療は複数回の通院が必要で、数週間から数ヶ月かかることもあります。その後、土台を立ててから被せ物を装着するため、全体の治療期間は長くなります。
Q3. 子どもの歯(乳歯)が欠けてしまいました。どうすればいいですか?
子どもの乳歯が欠けてしまった場合、いずれ永久歯に生え変わるからといって放置するのは禁物です。欠けた部分が鋭利になっていると、お子さんが舌や頬、唇を傷つけてしまう危険性があります。また、欠けた箇所から虫歯菌が侵入しやすくなり、虫歯が進行するリスクも高まります。さらに、乳歯の欠けや損傷は、その後生えてくる永久歯の萌出に悪影響を及ぼしたり、歯並びに影響を与えたりする可能性も考えられます。
大人の歯が欠けた場合と同様に、欠けた破片は可能な限り保管し、清潔なガーゼなどで止血しながら、できるだけ早く小児歯科または一般の歯科医院を受診してください。歯科医師は、欠けた歯の状態や、永久歯への影響などを総合的に判断し、お子さんにとって最適な治療法を提案してくれます。早期の受診が、お子さんの将来の口腔健康を守るために非常に重要です。
まとめ:歯が欠けたら自己判断せず、早めに歯科医院で相談を
歯が欠ける原因は、虫歯や歯ぎしり、外傷、食いしばり、酸蝕歯など多岐にわたります。痛みがなかったり、欠けた部分が小さかったりすると「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断してしまいがちですが、放置することは非常に危険です。
欠けた歯を放置すると、露出した象牙質から虫歯菌が侵入しやすくなり、虫歯が進行して神経に達したり、歯の根が割れて抜歯が必要になったりするなど、さらに深刻な状況を招く恐れがあります。症状が進行すればするほど、治療期間は長くなり、治療にかかる費用も増大してしまう可能性も高まります。
そのため、もし歯が欠けてしまったら、まずは冷静に応急処置を行い、できるだけ早く歯科医院を受診することが大切です。歯科医師に診てもらうことで、欠けた原因を正確に診断してもらい、ご自身の状態に合わせた適切な治療法を提案してもらえます。早期に専門家による治療を受けることが、ご自身の歯を守り、健康的で美しい口元を維持するための最善策となるでしょう。
岩手県盛岡市の歯医者・歯科
『高橋衛歯科医院』
住所:岩手県盛岡市北天昌寺町7−10
TEL:019-645-6969

