
近年、歯の美しさへの意識が高まり、ホワイトニングを希望される方が増えています。しかし、誰もがホワイトニングを受けられるわけではなく、口腔内の状態や体質によっては施術が適さないケースがあります。特に、ホワイトニングの可否判断が難しい「グレーゾーン」のケースも存在し、患者様に適切な情報を提供し、理解を深めていただくことが重要です。
この記事では、ホワイトニングができない明確なケースから、効果が限定的であったり、特別な注意が必要であったりする「判断に迷うケース」まで、具体的な対処法を解説します。また、ホワイトニングが難しい場合の代替案についてもご紹介いたします。この記事を通して、患者様に対して、ホワイトニングの適応や非適応について、正確かつ分かりやすく説明できるようになるための知識を提供します。
はじめに:ホワイトニングの基本と適応外の可能性
近年、歯の美しさへの意識が高まり、ホワイトニングを希望される方が増えています。しかし、ホワイトニングはすべての方に適用できるわけではなく、口腔内の状態や歯の特性、体質によっては施術が適さない、あるいは効果が得られにくいケースがあることをご存存じでしょうか。
このセクションでは、ホワイトニングの基本的な概念と、なぜ適応外となる状況が生じるのかについて、その入り口となる知識を解説します。施術をご検討中の患者さんに対し、安全かつ満足のいく結果へと導くために、まずはホワイトニングの基本を理解することから始めましょう。
ホワイトニングとは?歯が白くなる仕組み
ホワイトニングとは、歯の表面に付着した着色汚れを取り除くだけでなく、歯の内部、特に象牙質の色素を分解・漂白することで歯を白くする方法です。この漂白効果の主役となるのが、過酸化水素や過酸化尿素といった薬剤です。これらの薬剤が歯の内部に浸透し、色素と反応することで、歯の明るさが増していきます。
ホワイトニングには、歯科医院で専門的な施術を受ける「オフィスホワイトニング」、ご自宅でご自身で行う「ホームホワイトニング」、そして両者を併用する「デュアルホワイトニング」の3つの主要な方法があります。オフィスホワイトニングは高濃度の薬剤を使用し、特殊な光を照射することで即効性が期待できますが、色戻りがやや早い傾向があります。一方、ホームホワイトニングは低濃度の薬剤をマウスピースを用いてじっくり作用させるため、効果は穏やかですが、色の持続性に優れています。デュアルホワイトニングは、この両者の利点を組み合わせることで、即効性と持続性の両立を目指す方法です。
これらの方法は、それぞれ薬剤の濃度や作用時間、光の有無などが異なり、それが即効性や持続性、そして費用にも影響を与えます。患者さんのライフスタイルや希望する白さの度合いに応じて、最適な方法を検討することが大切です。
全ての人がホワイトニングを受けられるわけではない理由
ホワイトニングは、歯を白くする有効な手段ですが、残念ながらすべての方が施術を受けられるわけではありません。その理由は大きく分けて二つあります。一つ目は、安全性や健康上の懸念によるものです。ホワイトニング剤は化学物質であり、口腔内に虫歯や歯周病といった問題がある場合、それらの症状を悪化させたり、予期せぬ痛みや不快感を引き起こしたりするリスクがあります。また、特定の全身疾患をお持ちの方や、妊娠中・授乳中の方など、健康状態によってはホワイトニングが推奨されないケースも存在します。
二つ目は、ホワイトニングの効果が得られにくい、あるいはまったく効果がないという問題です。ホワイトニング剤が作用するのは天然の歯の組織のみであるため、すでに詰め物や被せ物といった人工の歯がある場合、それらの色を変えることはできません。その結果、ホワイトニング後に天然歯だけが白くなり、人工歯との間に色の差が生じてしまうことがあります。また、テトラサイクリン系抗生物質による歯の変色や、神経を失った歯の変色など、特定の原因による着色の場合は、通常のホワイトニングでは十分な効果が期待できないこともあります。これらの理由から、ホワイトニングを検討する際には、必ず事前に歯科医師による専門的な診断が不可欠となります。
ホワイトニングが適応外となる明確なケース
健康と安全は、歯科医療において最も優先すべき事項です。このセクションでは、ホワイトニングの施術が絶対に禁忌とされる、明確なケースについて詳しく解説していきます。これらのケースは「グレーゾーン」とは異なり、施術を行うべきではないと断定できる情報を提供することで、患者様への適切な説明と、安全な治療選択のための重要な指針となります。
虫歯や歯周病がある場合
虫歯や歯周病がある状態でのホワイトニングは、患者様の口腔内の健康を著しく損なう可能性があるため、禁忌とされています。ホワイトニング剤の主成分である過酸化水素や過酸化尿素は、歯の表面だけでなく内部にも浸透する性質を持っています。虫歯の穴や歯周病によって歯ぐきが下がり、露出した歯根部分にホワイトニング剤が直接触れると、歯の神経(歯髄)に強い痛みや炎症を引き起こすリスクが高まります。
特に、進行した虫歯がある場合、ホワイトニング剤が直接神経に到達し、激しい痛みを引き起こすだけでなく、神経を損傷してしまう可能性もあります。また、歯周病で歯ぐきに炎症がある状態でホワイトニングを行うと、炎症をさらに悪化させたり、歯ぐきの退縮を招いたりすることもあります。これらのリスクを避けるためにも、ホワイトニングは美容目的の処置であることを十分に理解し、まずは虫歯や歯周病の治療を最優先することが歯科医療の基本原則です。
患者様が安心してホワイトニングを受けられるよう、事前に適切な診断と治療計画を立てることが何よりも重要です。口腔内の問題が完全に治癒し、健康な状態になってから、改めてホワイトニングの可能性を検討するようにしてください。
無カタラーゼ症(先天性無カタラーゼ症)の方
無カタラーゼ症の患者様へのホワイトニングは、絶対に行ってはならない禁忌事項です。無カタラーゼ症とは、ホワイトニング剤の主成分である過酸化水素を分解する酵素「カタラーゼ」が体内で作られない、あるいは著しく少ない先天性の遺伝性疾患です。通常、体内に入った過酸化水素はカタラーゼによって水と酸素に分解され、無毒化されます。
しかし、無カタラーゼ症の患者様がホワイトニングを行うと、分解されなかった過酸化水素が体内に蓄積されてしまいます。これにより、口腔内の粘膜が壊死したり、より重篤な全身的な健康被害を引き起こす危険性があるのです。この疾患は非常に稀ですが、問診で確認し、少しでも疑いがある場合は、必ず専門医への紹介や詳細な検査を行い、ホワイトニングを避けるべきです。患者様の安全を最優先するため、この疾患の患者様へのホワイトニングは絶対に避けてください。
妊娠中・授乳中の方
妊娠中や授乳中の女性に対して、ホワイトニングは推奨されていません。これは、ホワイトニング剤が胎児や乳児に悪影響を及ぼすという明確な科学的証拠が確立されていないためです。しかし、同時に、その安全性を証明する十分な臨床データも存在しない「安全性が未確立」という状態にあります。
医療においては、特に胎児や乳児の健康に関わる場合、わずかでもリスクが否定できない状況では、予防的な観点から慎重な対応が求められます。そのため、万が一の事態を避けるためにも、不要不急の審美処置であるホワイトニングは、出産後および授乳期間が終了するまで延期することが強く推奨されます。患者様にはこの点を丁寧に説明し、理解を得ることが医療倫理上も重要であると考えています。
18歳未満の方(歯が未成熟な場合)
18歳未満の若年者へのホワイトニングは、一般的に推奨されません。これは、永久歯が完全に成熟する前の歯には、いくつかの解剖学的な特徴があるためです。特に、子供や青少年期の歯は、表面を覆うエナメル質やその下の象牙質がまだ柔らかく、歯の神経(歯髄)が収まっている「歯髄腔」が大人に比べて相対的に広いという特徴があります。
このような未成熟な歯にホワイトニング剤を使用すると、薬剤が歯の内部、特に歯髄に浸透しやすくなります。その結果、強い痛み(知覚過敏)を引き起こしたり、歯髄に過度な刺激を与えてしまったりするリスクが高まります。歯の健全な発育を最優先するためにも、ホワイトニングの施術は、歯が十分に成熟し、安定した状態になってから行うべきだと考えられます。一般的には、永久歯列が完成し、歯の成長が落ち着く18歳以降が適切であるとされています。
光線過敏症の方(オフィスホワイトニングの場合)
光線過敏症をお持ちの方の場合、特にオフィスホワイトニングは禁忌となります。この禁忌は、ホワイトニング剤の効果を促進するために、特殊な光(LEDやハロゲンランプなど)を照射するオフィスホワイトニングに限定されることをまず理解しておく必要があります。光線過敏症とは、特定の波長の光に過敏に反応し、皮膚などに炎症やアレルギー反応を引き起こす症状のことです。
オフィスホワイトニングで使用される強力な光を光線過敏症の患者様に照射すると、顔や口唇周囲に発疹が出たり、皮膚が赤くなる、かゆみが生じるといった有害事象が発生するリスクがあります。もし患者様が光線過敏症であることが判明した場合、光を使用しないホームホワイトニングであれば可能なケースもありますが、いずれにしても事前に医師による詳細な診断と相談が不可欠です。患者様の既往歴を十分に確認し、安全な施術法を選択することが重要になります。
判断に迷う「グレーゾーン」:効果や安全性に注意が必要なケース
前述の「明確な禁忌」とは異なり、ホワイトニングが絶対に不可能というわけではないものの、その効果が限定的であったり、予期せぬ結果が生じたり、あるいは施術にあたって特別な注意が必要となるケースが存在します。このような「グレーゾーン」のケースでは、患者さんの期待値を適切に管理し、十分な情報提供を行った上で、慎重に判断を進めることが非常に重要になります。ここでは、これらの判断に迷うケースについて詳しく掘り下げていきます。
詰め物・被せ物などの人工歯がある
歯のホワイトニングは、天然の歯の表面を覆うエナメル質に対して作用し、その内部の色素を分解することで歯を白くする処置です。そのため、お口の中にすでに詰め物(レジンなど)や被せ物(セラミック、金属など)といった人工の歯がある場合、それらの人工材料にはホワイトニング剤が一切作用しません。この点は、ホワイトニングを検討する上で非常に重要な基本原則となります。
この原則により、ホワイトニングを行うと天然歯だけが白くなり、既存の人工歯は元の色のままであるため、天然歯との間に色の違いが生じ、かえって目立ってしまう可能性があります。これは「色の不調和」と呼ばれ、審美的な問題を招くことがあるのです。例えば、前歯に古いレジンの詰め物がある場合、ホワイトニング後にその部分だけが黄色っぽく見えてしまうといった事態が起こり得ます。
このような事態を避けるための対処法としては、まず天然歯のホワイトニングを先に行い、ご自身の希望する白さになった時点で、その新しい歯の色に合わせて人工歯を再治療する方法が一般的です。新たに作製する詰め物や被せ物は、ホワイトニング後の天然歯の色調に合わせることで、お口全体の審美性を高めることができます。
神経のない歯(失活歯)の変色
神経のない歯、いわゆる「失活歯」の変色は、通常のホワイトニングでは効果が期待しにくいケースの一つです。これは、失活歯の変色が歯の表面に付着した着色汚れ(外因性着色)とは根本的に異なるメカニズムで起こるためです。
失活歯の変色は、歯の内部で神経が死んでしまった際に、歯の内部にある象牙細管(ぞうげさいかん)という細い管に血液成分や細菌代謝産物などが染み込むことによって生じます。この変色は歯の内部から起こる「内因性着色」であり、歯の表面から薬剤を塗布する通常のホワイトニング剤では、この内側の色素を十分に分解することが難しいのです。
このような失活歯の変色に対しては、「ウォーキングブリーチ」という専門的な方法が適しています。ウォーキングブリーチは、歯の内部に直接ホワイトニング剤を填入し、内側から漂白することで、失活歯の変色を効果的に改善することができます。この治療法については、後の「代替案」のセクションで詳しく説明しますので、そちらをご参照ください。
テトラサイクリン系抗生物質による変色歯
テトラサイクリン系抗生物質による歯の変色は、ホワイトニングの中でも特に難しいとされるケースの一つです。この変色は、歯の形成期である幼少期にテトラサイクリン系の抗生物質を服用したことが原因で、薬剤の成分が歯の組織に取り込まれてしまうことで起こります。そのため、歯自体の構造に色素が沈着している「内因性着色」であり、表面的な着色とは異なります。
テトラサイクリン歯の大きな特徴として、歯に現れる独特の縞模様(バンディング)や、灰色から茶色がかった独特の色合いが挙げられます。これらの変色は歯の内部深くに固定されているため、通常のホワイトニング剤では色素を分解しきることが困難です。そのため、期待通りの白さにまで改善することが難しい場合が多く、患者さんの希望に応えられないこともあります。
ただし、全く改善が見られないわけではありません。長期間にわたるホームホワイトニングや、オフィスホワイトニングとホームホワイトニングを併用するデュアルホワイトニングなど、時間をかけた特殊なアプローチによってある程度の改善が見られることもあります。しかし、その結果は予測しにくく、完全な改善は困難であるという現実的な見通しを患者さんに事前に伝えることが非常に重要です。過度な期待を持たせないよう、丁寧な説明が求められます。
重度の知覚過敏がある
重度の知覚過敏がある患者さんがホワイトニングを受ける場合、そのリスクと対処法について慎重な検討が必要です。ホワイトニング剤は、歯の表面のエナメル質を一時的に粗くすることで、薬剤が歯の内部に浸透しやすにする作用があります。これにより、外部からの刺激が歯の神経(歯髄)に伝わりやすくなるため、元々知覚過敏がある方はその症状が著しく悪化する可能性があります。
症状が悪化すると、冷たいものや熱いものがしみるだけでなく、歯ブラシが触れるだけでも強い痛みを感じるようになるなど、日常生活に支障をきたすこともあります。そのため、ホワイトニングを行う前に知覚過敏の症状をできるだけ緩和させておくことが重要です。歯科医院では、知覚過敏抑制効果のある歯磨き粉を数週間使用していただくことや、フッ素塗布を行うなどの処置を推奨する場合があります。
また、ホワイトニング中の対処法としては、ホワイトニング剤の濃度を低いものにしたり、オフィスホワイトニングであれば一度の施術時間を短く設定したりするなどの工夫が可能です。しかし、これらの対策を講じても痛みが強い場合は、患者さんの苦痛を最優先し、施術を中断または中止するという判断も重要な歯科医師の役割となります。無理をしてホワイトニングを継続することは、患者さんの歯の健康を損ねるだけでなく、ホワイトニング自体への不信感にもつながりかねません。
エナメル質が薄い、またはエナメル質形成不全症がある
エナメル質が薄い方や、エナメル質形成不全症をお持ちの方の場合、ホワイトニングは慎重に行うべきか、あるいは推奨されないことがあります。エナメル質は歯の一番外側を覆う硬い組織であり、その下には黄色味を帯びた象牙質があります。エナメル質が薄い場合、この黄色い象牙質が透けて見えやすくなるため、ホワイトニングでエナメル質を漂白しても、期待するほどの白さにならないことがあります。また、白くなっても歯の透明感が増すだけで、満足のいく結果が得られない可能性も考えられます。
さらに、「エナメル質形成不全症」とは、歯の形成期にエナメル質が十分に作られなかったり、質が悪かったりする症状です。この場合、歯の表面が不均一で粗造になっていたり、部分的にエナメル質がないこともあります。このような歯に対してホワイトニングを行うと、薬剤が歯面に均等に作用しないため、白さがまだらになったり、縞模様のような不自然な仕上がりになるリスクが高まります。
どちらのケースにおいても、エナメル質が薄い、または質の悪い状態であるため、ホワイトニング剤の刺激が歯の神経に伝わりやすく、通常よりも強い知覚過敏を誘発する可能性が高まります。痛みが生じやすく、患者さんにとって不快な経験となることも多いため、これらの状態を持つ方へのホワイトニングは慎重な診断と、場合によっては別の審美治療を検討することが望ましいでしょう。
加齢による象牙質の変色が強い
加齢に伴う歯の黄ばみは、多くの方が経験する自然な現象ですが、このケースにおけるホワイトニングの効果には限界があります。加齢による歯の変色は、単に歯の表面に付着する着色汚れだけでなく、複数の要因が複合して起こるためです。
一つ目の要因は、長年の使用によって歯の表面のエナメル質が少しずつ摩耗し、その結果、エナメル質の下にある黄色味の強い象牙質が透けて見えやすくなることです。二つ目の要因は、象牙質自体が加齢とともに少しずつ厚みを増し、色が濃く(黄ばんで)なることです。これらの内因性の変化は、表面的な着色を除去するだけでは改善が難しく、ホワイトニング剤による漂白効果にも限界があります。
そのため、加齢による黄ばみに対してホワイトニングを行った場合、ある程度の改善は見られるものの、若い頃のような劇的な「真っ白な歯」を取り戻すことは難しいことがほとんどです。多くの場合、より自然で落ち着いた白さに仕上がることが多く、患者さんの期待値と実際の効果との間にギャップが生じやすい傾向にあります。施術前にこの現実的な見通しをしっかりと患者さんに伝え、期待値を適切に調整することが、後悔のないホワイトニングにつながるために非常に重要になります。
歯並びが悪く、薬剤が均一に塗布できない
歯並びが悪い、つまり歯列不正がある場合にホワイトニングを行うと、薬剤が均一に塗布されず、その結果として効果にムラが生じるリスクがあります。この問題は、特にご自宅で行うホームホワイトニングにおいて顕著に見られます。
ホームホワイトニングでは、患者さん一人ひとりの歯型に合わせて作製されるカスタムメイドのマウスピースを使用しますが、歯が重なり合っていたり、ねじれて生えていたりすると、マウスピースが歯の表面に均一に密着しにくくなります。その結果、ホワイトニングジェルが十分に届く部分と、届きにくい部分が生じてしまいます。
薬剤の塗布量にばらつきが生じると、効果にも差が出てしまい、ホワイトニング後に歯の色がまだらになったり、部分的に白さが足りない縞模様のような不自然な仕上がりになる危険性があります。このような審美的な問題は、患者さんの満足度を著しく低下させる可能性があります。この問題への対処法としては、歯科医師が直接歯に薬剤を塗布するオフィスホワイトニングを検討するか、あるいはホワイトニングを検討する前に矯正治療によって歯並びを整えることが望ましいでしょう。
グレーゾーンのケースへの対処法
これまでのセクションでは、ホワイトニングが絶対的に不適応となるケースと、効果や安全性に関して慎重な判断が必要となる「グレーゾーン」のケースについて詳しく解説しました。このセクションでは、後者の判断に迷う症例に対し、臨床現場でどのように向き合い、患者様にとって最善の選択肢を導き出すかという具体的なアプローチ方法をご紹介します。自己判断に頼ることなく、専門家によるカウンセリングと丁寧なコミュニケーションを通じて、納得のいく結果へとつなげるためのプロセスに焦点を当てていきます。
自己判断は禁物!まずは歯科医師への相談を
歯の色や状態に関するお悩みをお持ちの際、市販のホワイトニング製品やインターネット上の情報だけで自己判断するのは非常に危険です。歯の変色の原因は人それぞれで、表面的な着色から歯の内部の問題、さらには全身疾患の兆候まで多岐にわたります。これらの複雑な要因を正確に診断し、口腔内の健康状態を総合的に評価できるのは歯科医師だけです。
安全で効果的なホワイトニングを実現するためには、プロフェッショナルである歯科医師による診断と適切な指導が不可欠です。ご自身の歯の状態に合わせた最適な方法を見つけるためにも、まずは歯科医院を受診し、専門家のアドバイスを求めることが、後悔のない美しい白い歯への第一歩となります。
歯科医院でのカウンセリングで確認されること
歯科医院で行われるホワイトニングのカウンセリングでは、患者様一人ひとりの口腔内の状況や健康状態を詳細に確認し、適切な治療計画を立てていきます。まず、全身疾患の有無、服用中の薬、アレルギー歴、妊娠中または授乳中であるかなど、問診を通じて全身の健康状態を把握します。
次に、口腔内診査を行います。虫歯や歯周病の有無、歯の亀裂や欠け、既存の詰め物や被せ物の状態、エナメル質の厚みなどを細かくチェックします。これらの問題がある場合は、ホワイトニングを安全に行うために、まずそれらの治療を優先する必要があります。また、現在の歯の色を測定し、変色の原因がコーヒーや紅茶によるものか、加齢によるものか、あるいはテトラサイクリンなどによる内因性のものかを特定することで、ホワイトニングの効果予測と限界を患者様にお伝えします。
最後に、患者様がどのような白さを望んでいるのか、具体的な希望や期待値を詳しくヒアリングします。その上で、現在の歯の状態から現実的に達成可能なゴールを共有し、可能な治療方法とそのメリット・デメリット、費用などを明確に説明することで、患者様が納得して治療を選択できるようサポートいたします。
ホワイトニングが可能と判断された場合の注意点
歯科医師によるカウンセリングの結果、ホワイトニングの実施が可能と判断された場合でも、特に「グレーゾーン」に該当するケースでは、いくつかの注意点をご理解いただく必要があります。ホワイトニング施術中に最も多くみられるのが「一時的な知覚過敏」です。これはホワイトニング剤によって歯が一時的に敏感になることで起こる症状で、通常は数時間から数日で治まります。症状が強く出た場合は、知覚過敏抑制剤の使用や施術時間の調整などで対応することが可能です。
また、ホワイトニング剤が歯ぐきに付着することで、一時的に歯肉が刺激され、軽く白くなることがあります。これも通常は時間とともに治まるものですが、気になる場合は速やかに歯科医師にご相談ください。ホワイトニング後は、歯の表面の着色物質を取り込む力が一時的に高まります。そのため、施術後24〜48時間は、コーヒー、紅茶、赤ワイン、カレー、醤油など、色の濃い飲食物の摂取を避けることが、白さを長持ちさせる上で非常に重要です。喫煙も着色の原因となるため、この期間は控えることをお勧めします。
ホワイトニングが難しい場合の代替案
ホワイトニングが適応外であったり、期待する効果が得られにくい場合でも、歯を美しく見せるための方法は他にもたくさんあります。ここでは、ホワイトニングに代わる代表的な審美歯科治療や、日常生活で実践できるセルフケア方法をご紹介します。患者様一人ひとりの歯の状態やライフスタイルに合わせた最適な解決策を見つけるための一助となれば幸いです。
セラミック治療(ラミネートベニア・セラミッククラウン)
セラミック治療は、歯の色や形を根本的に改善する審美歯科治療の一つです。「ラミネートベニア」は、歯の表面を薄く削り、その上からセラミック製の薄いシェルを強力な接着剤で貼り付ける方法です。これにより、歯の色だけでなく、軽度の隙間や形の不揃いも改善できます。特に、テトラサイクリン歯のようにホワイトニングでは効果が期待できない重度の変色に対しても、自然で美しい白さを確実に実現できるという大きな利点があります。
一方、「セラミッククラウン」は、虫歯などで大きく欠損した歯や、根管治療後に強度が低下した歯などに対し、歯全体を覆うセラミック製の被せ物です。この治療法は、歯の強度回復と同時に、オーダーメイドで製作されるため、天然歯と見分けがつかないほどの高い審美性を実現します。ラミネートベニアと比較して歯を削る量は多くなりますが、失活歯の変色や、過去の治療で残っている銀歯などをセラミックに置き換えることで、健康的な白い歯を取り戻すことが可能です。
PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)
PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)とは、歯科医師や歯科衛生士といった専門家が、専用の機械とフッ化物入りの研磨ペーストを用いて、歯の表面に付着した汚れを徹底的に除去するクリーニングのことです。普段の歯磨きでは落としきれない、歯の表面に固着したバイオフィルムや、コーヒー、紅茶、ワイン、タバコなどによるステイン(着色汚れ)を丁寧に除去します。
PMTCは、歯を漂白するホワイトニングとは異なり、歯が本来持っている自然な白さや輝きを取り戻すことを目的としています。そのため、ホワイトニングが適応できない方や、歯の表面の着色が主な原因で歯の色が気になる方にとっては、有効な選択肢となります。また、ホワイトニング後の白さを長持ちさせるためのメンテナンスとしても非常に効果的です。
ウォーキングブリーチ(失活歯のホワイトニング)
ウォーキングブリーチは、神経を失った歯(失活歯)の内部からの変色に対して行われる特別なホワイトニング治療です。神経を失った歯は、時間の経過とともに内部が変色し、通常のホワイトニングでは効果が得られません。この治療では、まず歯の裏側から小さな穴を開けて内部の古い詰め物などを除去し、その歯髄腔に専用のホワイトニング剤を填入します。
薬剤を填入した後、一時的に蓋をして、患者様は数日間その状態で過ごします。この「歩きながら(ウォーキング)歯を白くする」という意味合いから、ウォーキングブリーチという名称がつけられました。薬剤が歯の内部で作用し、変色の原因となっている色素を分解することで、失活歯が徐々に白くなります。外部からのホワイトニングでは効果が見られない失活歯にとって、もっとも効果的に歯の内部から白さを取り戻すことができる治療法です。
歯のマニキュアやホワイトニング効果のある歯磨き粉
手軽に歯の白さを改善したいという方には、「歯のマニキュア」や「ホワイトニング効果のある歯磨き粉」も選択肢の一つです。歯のマニキュアは、爪にマニキュアを塗るように、歯の表面に白い塗料を塗布して一時的に歯を白く見せる方法です。即効性があり、比較的安価で手軽に試せるのが特徴ですが、効果は一時的であり、飲食によって剥がれやすく、持続性はありません。結婚式やイベントなど、一時的に歯を白く見せたい場合に利用されることが多いです。
一方、市販されている「ホワイトニング効果のある歯磨き粉」の多くは、歯の表面に付着した着色汚れ(ステイン)を研磨剤の力で除去したり、薬用成分で浮かせたりすることで、歯本来の白さに近づけることを目的としています。これらの歯磨き粉には、歯自体の色を漂白する効果はありません。そのため、劇的に歯が白くなることは期待できませんが、日々のケアに取り入れることで、着色汚れの予防や除去に役立ち、歯の白さを維持する効果は期待できます。
まとめ:自分の歯の状態を正しく理解し、最適な方法を見つけよう
歯を白く美しくしたいという思いは多くの方が抱いていますが、安全かつ満足のいく結果を得るためには、ご自身の歯の状態を正しく理解することが何よりも大切です。歯の変色の原因は一つではありませんし、お口の中の健康状態も人それぞれ異なります。そのため、ホワイトニングがすべての方に適しているわけではなく、明確に避けるべきケースや、慎重な判断が必要な「グレーゾーン」のケースも存在します。
本記事では、虫歯や歯周病、特定の疾患がある場合など、ホワイトニングが禁忌となる明確なケース、また、詰め物や被せ物がある歯、神経のない歯、テトラサイクリンによる変色歯、知覚過敏が重度の方など、効果や安全性に注意が必要なケースについて詳しく解説してきました。これらの情報を通じて、ご自身の歯がどの分類に該当するのか、ある程度の見当がついたのではないでしょうか。
もしホワイトニングが難しいと判断された場合でも、ご安心ください。セラミック治療、PMTC、ウォーキングブリーチ、歯のマニキュアやホワイトニング歯磨き粉など、歯を美しく見せるための多様な代替案があります。これらの選択肢の中から、ご自身の状況と希望に最も合った方法を見つけるために、まずは歯科医院でプロフェッショナルな診断とアドバイスを受けることを強くおすすめします。自己判断に頼らず、専門家と相談しながら、理想の口元を目指しましょう。
少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
監修者
高橋 衛 | Takahashi mamoru
岩手医科大学歯学部卒業後、岩手医科大学歯学部口腔外科第二講座入局し、
医療法人 高橋衛歯科医院設立 理事長就任、MAMO IMPLANT CLINIC MALIOS 開設
【所属】
・日本歯科医師会
・岩手県歯科医師会
・盛岡市歯科医師会
・歯科医師臨床研修指導歯科医
・岩手県保険医協会
・日本口腔外科学会
・日本口腔インプラント学会
・EUROPEAN ASSOCIATION FOR OSSEOINTEGRATION
・AMERICAN ACADEMY PERIODONTOLOGY
・岩手医科大学歯学会
・デンタルコンセプト21 会員
・日本歯科東洋医学会
・JIADS Club 会員
・P.G.I Club 会員
・スピード矯正研究会 会員
・床矯正研究会 会員
・近代口腔科学研究会 会員
【略歴】
・岩手医科大学歯学部 卒業
・岩手医科大学歯学部口腔外科第二講座 入局
・「高橋衛歯科医院」 開業
・「MAMO IMPLANT CLINIC MALIOS」 開業
岩手県盛岡市の歯医者・歯科
『高橋衛歯科医院』
住所:岩手県盛岡市北天昌寺町7−10
TEL:019-645-6969