理事長の高橋衛です。私は、今年のゴールデンウィーク(4/29〜5/5)に、アメリカ矯正歯科学会(American Association of Orthodontists 略してAAO)に参加するためにアメリカのオーランドに行ってきました。学会前日の4月29日の夜にオーランドに到着し、4月30日から5月3日までの4日間、学会会場と宿泊ホテルに缶詰状態で濃密な1週間を過ごしました。
今回のAAOには、MATI(Minami Alps Training Institute)の秋山先生グループで参加し、毎年参加されている秋山先生のご指導のもとに、矯正治療の勉強をしてきました。以下に、私が学んだことを簡単にまとめました。
私は、AAOには初参加でしたが、驚いたことが3つありました。
一つ目ですが、Dr.Chris Changという台湾の先生のプレゼンテーションには、非常にびっくりしました。私は、これまでの矯正治療の常識を覆す、矯正歯科学上の歴史が変わる瞬間に立ち会ったようでした。私は、とにかく本当に驚きました。このプレゼンテーションでは、現在の常識では外科矯正(顎の骨を手術する方法を併用した矯正)をしなければ絶対に治らないとされてきた困難なケースを、手術をしなくても極めてシンプルな方法で、適正な歯並びに直した症例を多数紹介していました。従来のような外科矯正や、大がかりな装置を口腔内外に装着することは、患者さんにとって大変苦痛を伴うことです。Dr.Chris は、シンンプルで最小の侵襲(ほとんど患者さんに負担がかからない)で、様々な工夫をして短期間で治療困難な不正咬合を治していました。このことは、私も矯正治療をする上でいつも心がけていることです。このプレゼンテーションは、これからの私の矯正治療にとても参考になり、私は、帰国早々、早速治療に活かしています。
二つ目に驚いたことは、アメリカ矯正歯科学会の規模がとても大きいこと、学会当日の参加人数が非常に多く1万人以上と大盛況であったことです(通常、規模の大きな学会でも2,000人程度です)。演題数も多く内容も多岐に渡り、矯正関連の業者展示数も数百社と、アメリカ国民をはじめ歯科医師の矯正に対する関心の高さを窺い知ることができました。アメリカ歯周病学会などの他のメジャーな学会に比較し、年々参加人数が増えているようです。アメリカでは、ティーンエイジャーの矯正治療が常識(私立学校などでは、クラスのほぼ全員が矯正治療を受けているそうです)と言われておりますが、あと10年後には、日本も矯正治療がもっと広く普及し、治療を受ける人も現在の5〜10倍に増えるかもしれません(私の予想です)。
三つ目は、今回の学会では、古い装置を使用し治療を行なった、エビデンス(科学的根拠)に基づく発表が数多くあったことです。私は、今はあまり古い装置は使用していませんが、アメリカの矯正専門医でかなり古典的な装置を多用していることに驚きました(施設にもよりますが)。逆に、新しい技術の発表は、ほとんどありませんでした。私は、最新のテクノロジーを駆使した新しい装置を宣伝している業者展示ブースとのギャップを感じました。
また、現代矯正治療の主流となっているシステムの開発者である、Dr.Andrewsという偉大な先生の特別講演も開催されました。講演では、矯正学のフィロソフィーや診査・診断・治療の重要な要点についてレクチャーをされていました。私は、それらの格調高い講演内容に感激しました。
最後に、皆様に有益な最新の情報をお伝えします。最近日本でもようやくクローズアップされてきた問題についてです。それは、不正咬合と顎関節症との関係、それから不正咬合と睡眠時無呼吸症候群との関係についてです。今回の学会ではこれらについてのセッションがあり、多くの人が関心を持っていました。解剖学的に近い部分にあり、これらは深い関係があるという仮説が立てられ、矯正歯科医も治療に携わっている分野です。そこで、この問題についてアメリカの多くの研究施設で、長年に渡りリサーチされてきました。その結果、最新の知見では、不正咬合とこれらの疾患との関連性は全くない、科学的根拠は無いと結論づけられていました。つまり、不正咬合が原因で、顎関節症や睡眠時無呼吸症候群などの疾患は起こらないし、矯正治療を行なってもこれらの疾患は治らないということです。矯正治療が原因で起こることもありません。巷では様々ことが言われていますが、これらの問題については、私がお伝えすることが最も新しい、信頼できる情報です。
今年のアメリカ矯正歯科学会を締めくくり、秋山先生は、例年のAAOと比較し今回は、新しいものを追い求めるのではなく、患者さんの為に、患者さんの利益を考えた治療や装置を何よりも優先するということが再考された学会だったのではないかということです。来年のAAOは、4月にサンディエゴで開催されるそうです。次回も参加し、皆様に最新の情報を報告させて頂きます。